コラム

【メディア運用者必見】広告枠の価値を引き出す価格ルール設定とは?

Junpei Tani

ディスプレイ広告を設置しているメディアの運用者にとって、”価格ルールの設定”は悩みの種です。
Google Ad Managerなどを使って広告枠の販売価格を設定する訳ですが、「どうすれば一番高く広告枠が売れるか」なんて誰も教えてくれません。
それもそのはず、メディアによって”ユーザー”も”規模”も”広告枠の価値”も違うのに、同じ方法は通用しないのです。ただし数十メディアの傾向を観察していると、一定の単価向上スキームは存在することがわかっています。今回は運用担当者の手助けになる”運用のヒント”について解説していきます。

運用前に押さえておきたいポイント

解説の前に、抑えていただきたいポイントをピックアップしました。すでに知っているという方も、復習ついでに一読いただけますと幸いです。

①Floor price(フロアプライス)
SSP(メディア側)が設定する最低落札単価のことで、設定された入札額以下では掲載されません。
未設定の場合はBuyer(買い手)側の評価によって価格が決定されますが、販売価格のコントロールはできなくなります。よって、運用による収益向上を狙う場合には設定することをおすすめします。

②Auction pressure(オークションプレッシャー)
Buyer間でおこなわれる価格競争を指します。
基本的な価格決定のロジックは”最も高い入札を優先する”なので、競争相手が多ければ、その分入札価格も引き上げることができます。
以前、ご紹介したHeader Biddingやパスバックタグの設定も、このオークションプレッシャーを高めるための施策になります。

③Bid shading(ビッドシェーディング)
DSPが”1st price auction”での入札時に”2nd price auction”の落札価格と同じ価格になるよう入札価格を調整する仕組みです。
【例】
・2nd priceでの入札価格:10円
・2nd priceでの落札価格:8円
・1st priceでの最高入札価格:10円
・Bid shading後の1st priceでの入札価格:8円
もともとはオークション形式が”2nd price auction”⇒”1st price auction”に移行した際、Buyerが1st priceの設定金額を高く設定し過ぎて、適正価格よりも高く落札してしまう現象『winner’s curse(勝者の呪い)』を防止するために開発されました。
「基本的に」と前述しているのは、Bid shadingの具体的なアルゴリズムはBidder毎に異なり、かつ透明性が高くない(開示なされない)ケースもあるためです。ただし基本的な価格設定のアルゴリズムが上記に起因しているとすれば、2nd priceが低いほど最終的な入札価格は低くなることになります。
つまりオークションプレッシャーが不十分であるなど、2nd priceが低くなるようなシチュエーションによって入札価格が下がる傾向にあるといえます。

入札単価をあげる戦略

基本的な運用の流れ

1.最初は控え目な価格で様子をみる
2.徐々に設定金額を引き上げる
3.入札価格の限度ラインを見つける

1.最初は控え目な価格で様子を見る

各DSPはimpressionを購入した際に、購入した広告枠やユーザーの広告パフォーマンスを評価することによって、次回以降の入札単価を最適化しています。この働きを”デマンドラーニング”や”デマンドトレーニング”と呼ぶこともあります。そしてこのラーニングをおこなうためには、一定数のimpressionに対してBidする必要があるため、各DSPに入札の機会を与えることが重要です。
また1st price auctionへの移行による”winner’s curse”の影響を考慮した結果、Buyerの入札価格は以前と比べて低くなっている傾向にあるため、入札単価の設定初期においては”なるべく低単価に設定して各DSPに入札機会を与える”ことが必要になります。

下図は”デマンドラーニング”を実施する前後での、各Buyerのimpression数の変化とそれらのBuyerの合算収益(Revenue)の推移になります。
ラーニング前はimpression、Revenueともに少ない状態ですが、フロアを低く設定することでimpressionとRevenueが増加しています。更にラーニング後、フロアを標準価格に戻してもimpressionを保ったままRevenueが増えており、これは各DSP内でのラーニング結果によって入札が促進されていることを示しています。

デマンドラーニングによる配信影響

2.徐々にフロアプライスを引き上げる

一定期間DSPへのラーニングをおこなったら、今度は徐々にフロアプライスを引き上げて1st priceと2nd priceの価格を上げていきます。この際、可能であればHeaderBiddingの接続Bidder全体でもフロアプライスの引き上げをおこなうことで、よりオークションプレッシャーの効果を強くすることができます。
設定価格の目安としては、手順1での最高入札価格を基準として設定していきますが、急激に変動させるとDSP側の対応が追いつかずにBidされなくなったりと機会損失の原因にもなるため、適正価格がわからないうちは10%~20%の変化率で様子を見ていくのが確実でしょう。
この過程で徐々にオークションプレッシャーが強まり、広告単価の上昇が見られます。加えてパスバックを設定している場合は、パスバックする在庫が増えてFillerのパフォーマンスが上がる傾向にあります。

設定価格引き下げによるオークションプレッシャー例

・【Google+HB】:Google、及びHeader Biddingによって配信されたimpressionにおけるCPM単価
・【Filler】:”Google+HB”で買われなかった在庫を買い取るSSPやアドネットワークにおけるCPM単価
・【Total】:”Google+HB”と”Filler”を全て含めた、全体でのCPM単価

3.入札価格の限度ラインを見つける

徐々に入札単価を引き上げていくと、これ以上は単価が上がらないという「壁」にぶつかります。
この「壁」が現時点での広告枠がもつポテンシャルの限界であり、Buyer側が入札できる価格の限界でもあります。
ただし注意すべき点として、この限度ラインは市況や季節要因で変動します。よって、一度最適化されたからといって放置していると思わぬ機会損失を被ることになりますので、常に状態の確認が必要となってきます。

単価の限界値を上げるために

広告単価の限度額に計算式はないものの、限度額を決定づけている要素があります。それらの各要素をグレードアップすることによって限度額が引き上げられていくので、改善施策も合わせてご紹介します。

Viewability(視認性)
一般的に、広告は下記の条件を満たしてはじめて「視認された」と見なされます。この視認された割合をViewabilityと言います。

・ 静止画:広告の50%が視認された状態で、1秒以上経過
・ 動画:広告の50%が視認された状態で、2秒以上経過

もちろんこのViewabilityが低下すると、広告効果が下がって単価も下落します。
また注意が必要なのは、視認性の低い枠がメディア全体の評価を落とす原因になることもあります。
SSPやDSPといった配信事業者は各広告枠だけでなく、時にはメディア全体のパフォーマンスを加味してメディアを評価しているため、”視認性の悪い枠が存在している”こと自体がデメリットになる可能性もあるのです。

【改善施策例】
・レイジーロードの実装
・広告表示速度の改善
※速度改善については、「Core Web Vitalsにおける運用型広告の影響分析と実施施策3選」をご覧ください。

CTR(Click Through Rate)
例え視認率が高くても、Click率が高い=広告訴求効果が高いという指標となるため、CTRが高い広告枠ほど単価の高い傾向にあります。
そのため複数の広告枠を隣接させたり、1ページに広告枠を設置し過ぎて枠同士でClickの取り合いになる状況はなるべく避けるべきでしょう。

【改善施策例】
・視認性が高く、クリックしやすい箇所に広告枠を設置する(例:記事下や画像付近等)
・インターステシャルやオーバーレイといった視認性の高いフォーマットの実装
・ユーザー層にマッチする広告案件の掲載

CVR(Conversion Rate)
ではCTRが高ければ広告単価が上がってくるかというと、そういう訳ではありません。
クリックされたとしても実際にConversionが発生していなかったり、そもそも来訪ユーザーが広告案件の訴求内容にマッチしていなければ広告評価は上がらないのです。

【改善施策例】
・市場の広告需要にマッチしたコンテンツカテゴリの選定
・PMPや配信事業者とのコミュニケーションを通して、自社コンテンツにマッチするBuyerを確保する

さいごに

いかがでしたでしょうか?今回は基本的な運用のロジックや考え方についてお伝えしましたが、全てのメディアに対して有効な手段ということではありません。イレギュラーな反応をする場合や、市場の案件状況/季節的な要因が加わることもあるので、状況に合わせたPDCAを実行する必要があります。
もし、現状の運用状況について具体的なアドバイスが必要な際には、下記よりお気軽にご相談いただけますと幸いです。

 

Junpei Tani

専門メディアや新聞社のメディアコンサルティング経験後、現在はプラットフォームの運用最適化やプロダクトの利用促進業務を行う。趣味は社交ダンス。大会でも優勝経験ありのエンハンスのダンサー。