インタビュー

【インタビュー】 前編:「サブスクは追加の売上施策ではない。」外部環境に振り回されにくい収益基盤を作る 『サブスク導入』の思想

メディア運営において、広告収益は外部環境の変動に大きく左右されます。景気動向やプラットフォームの仕様変更、さらには単価の変動など、自社ではコントロールしきれない不確実な要素が常に付きまといます。この数年で、「PVを稼ぐ」ことだけに特化したビジネスモデルの限界を実感されている方も多いのではないでしょうか。

こうした背景から、多くのメディアが次の一手として検討を始めているのがサブスクリプションです。読者との継続的な関係を土台に、自社で収益を積み上げていく。しかし、それは単に「システムを導入すればよい」という単純なものではありません。

「何を、誰に届け、どのような事業として成立させるのか」——。この根幹となる設計が曖昧なままでは、どれほど優れたコンテンツがあっても持続的な成長を描くことは困難です。

では、メディアがサブスクを本格的な「事業」として組み立て直すとき、まず何を考えるべきなのか。その基本思想と設計の要諦について、メディアビジネスの第一線で活躍されてきた坊田様に、弊社代表の立石がお話を伺いました。

■坊田様プロフィール
スポーツ新聞の編集部門で紙面編集に携わった後、デジタル部門では広告、編集、新規事業など幅広い領域を統括し、サブスクリプションの立ち上げにも関わる。現在は知育系サイトの運営に取り組みながら、メディアの事業運営やデジタル活用に関する相談にも応じている。

サブスクは「追加の売上施策」か?

まずは、広告とサブスクを組み合わせる意義から伺いました。

立石:メディアのマネタイズにおいて、広告収益を基盤としつつ、さらにサブスクリプション等のコンテンツ課金の検討についてのお話を多く伺うようになりました。これらの性質の異なる収益モデルの検討により、メディアの「経営体力」はどのように強化されるとお考えですか?

坊田様:広告とサブスクを組み合わせる意義は、単に売上源を一つ増やすことにとどまりません。性質の異なる収益を組み合わせることで、広告に偏った収益構造を改め、外部環境の変化による影響を和らげることにあります。広告収益は、景気、広告市況、プラットフォームの仕様変更、単価の変動など、外部環境の影響を受けやすい。一方、サブスクは、読者との継続的な関係を前提に、自社で積み上げていく収益です。広告収益だけに頼らず、性質の異なる収益を併せ持つことで、経営の安定度を高めることができます。要するに、サブスクは売上を上乗せするためだけの施策ではなく、この先の収益をどう組み立てるかを見直す話だと思います。

「各社がやっているから」では始まらない

立石:なるほど、単に新たな収益の柱を作るだけでなく、読者との関係作りの延長で自社で積み上げる収益という考え方ですね。一方で、サブスク導入を検討されたものの実際に実施に至らないケースもあるように思われます。サブスクの導入に際して、メディアにおいて課題となっている要素は何でしょうか?

坊田様:大きな課題は、ツールの機能以前に、サブスクをどういう事業として捉えるかが曖昧なまま始めてしまうことだと思います。特に、これまで広告収益とPVを中心に運営してきたメディアほど、その延長線上でサブスクを考えてしまいやすい。

立石:それは重要な着眼点ですね。広告とサブスクでは、同じメディア運営における着目すべきKPIが異なるということでしょうか?

坊田様:広告中心の運営では、できるだけ多くの読者を集めることや、大きなPVを確保することが重視されやすい。一方、サブスクでは、継続的に読まれること、解約されにくい関係を築くこと、価格に見合う価値を保ち続けることが問われます。評価の軸も、運営の前提も変わるのに、その切り替えが曖昧なまま始めると、設計に無理が生じます。しかも、サブスクはどのメディアにも同じ形で当てはまるものではありません。求める売上規模、必要な利益水準、固定費の重さによって、成立の条件は変わります。そうなると、必要な会員数、価格設定、許容できる解約率も変わってきます。したがって、各社が始めているから自社もやる、という話ではなく、どの規模の事業として成立させる必要があるのかを見極め、そのうえで、どの読者に、どの価値を届けるのかを詰めることが大切です。

各社の動きではなく、自社が成立させるべき事業の規模と、届けるべき読者。サブスクの設計は、そこから始まります。

広告価値はPVだけで語れない

サブスクによって読者との関係が深まると、広告の価値はどう変わるのか。続いて、広告とサブスクの「共存」について伺いました。

立石:読者がメディアのファンとなり、滞在時間や再訪率が高まり、そこに適切な広告スペースを設計できれば、広告主にとっても「価値の高い枠」に繋がると考えられますが、広告とサブスクの共存を最大化させるための秘訣はどこにあるのでしょうか?

坊田様:まず広告価値をPVだけで語らないことだと思います。広告の評価は、表示回数の多さだけで決まるわけではありません。どのような読者が集まっているのか、その読者がどれだけ継続して見ているのか、媒体にどの程度の信頼を持っているのかによっても変わります。再訪率が高く、滞在時間も長く、継続的に読まれているメディアは、広告主に対しても単なる表示回数とは違う価値を提示できます。

読者との関係が深まるほど、広告の評価も上がる

立石:広告主側の見方も一様ではないと思いますが、どのようなアプローチで整理するのがよいでしょうか?

坊田様:もちろん、広告主の目的によって重視するものは違います。認知拡大が目的なら、リーチの大きさが重要になる。一方、媒体との親和性や文脈、読者との関係の深さが問われる場合は、継続的に読まれている読者基盤の方が価値を持ちやすい。ですから、広告とサブスクの共存を考えるなら、量の価値だけでなく、読者との関係の深さも含めて広告価値を説明できる状態を作ることが必要です。

立石:メディアのKPI設定において気をつけるべきことはありますか?

坊田様:短期のPVやリーチだけを追いかけないことも重要です。瞬間的な流入を取りにいくことに偏ると、見出しや導線が過剰になり、結果として読者の期待を裏切りやすくなる。サブスクを育てるうえで大事なのは、その逆です。読む前の期待と、読んだ後の納得がきちんとつながっていること。言い換えれば、読者の期待を裏切らないことです。共存のメリットを最大化するとは、広告のために読者との関係を削ることではなく、読者との関係が深まるほど、広告の評価も上がる状態をどう作るかということだと思います。

自前のデリバリー基盤という「基本」

立石:ここまでのお話をお伺いし、あらためて各種プラットフォームの仕様変更(アルゴリズム等)に左右されず、着実にPVとファンを伸ばし続け、強固なメディア基盤を作ることが重要であると理解しました。改めてメディアの運営に共通する「基本」は何でしょうか?

坊田様:基本は二つあると思います。一つは、読者が繰り返し求めるコンテンツを継続的に出せること。もう一つは、そのコンテンツを、自社である程度コントロールできる読者との接点でも届けられることです。

立石:自社でコントロールできる接点とは、具体的にはどのようなものでしょうか?

坊田様:ここで言う読者との接点とは、たとえばニュースレター、Webプッシュ通知、会員向け配信、アプリ通知、リアルイベント、あるいは媒体名を思い出して直接訪れてもらえる習慣のようなものです。検索やSNSは重要な入口ですが、それだけに依存すると、仕様変更の影響を強く受けます。長く伸びるメディアは、外部プラットフォームを使いながらも、自社で維持できる読者との接点を同時に育てています。もう一つ重要なのは、コンテンツとデリバリーを分けて考えることです。優れたコンテンツがあっても、適切に届かなければ読まれない。逆に、デリバリーだけ整っていても、コンテンツに独自性や継続価値がなければ定着しない。したがって、アルゴリズムに振り回されにくいメディアの基本とは、コンテンツの競争力と、自前のデリバリー基盤の両方を持っていることだと思います。

コンテンツの競争力と、自前のデリバリー基盤。この両輪が、外部環境に振り回されないメディアの土台になります。

読者が「投資する価値」を感じるものは何か?

とはいえ、無料ニュースが溢れる中で、読者がお金を払ってでも読みたいと感じる価値を作るのは簡単ではありません。本対談は、有料コンテンツ化の核心に迫ります。

立石:多くの無料ニュースがある中で、読者が「このメディアを継続的に応援したい」と感じたり、もしくは「このメディアのコンテンツには投資する価値がある」と感じることが重要であると考えますが、メディア運営において一歩踏み込んだ付加価値の作り方のヒントはあるのでしょうか?

坊田様:一つの大きな方向性は、コモディティ化した情報ではなく、代替しにくい価値をどう作るかだと思います。

代替しにくい価値をどう作るか

立石:代替しにくい価値とは、具体的にはどのようなものでしょうか。

坊田様:無料ニュースが強いのは、出来事を早く広く流通させる領域です。そこに同じ形で向かっても、読者にとっての違いは生まれにくい。有料で価値が出るのは、その出来事をどう理解すべきか、どこを重要と見るべきか、それが自分の仕事、資産、生活の判断にどう関わるのかまで整理されている場合です。言い換えれば、読者が対価を払うのは、情報の量よりも、独自性のある解釈、整理、判断材料に対してです。

立石:メディア運営者側の立場において、その独自価値をどこに置くべきか、どのように見極めればよいのでしょうか?

坊田様:ここで重要になるのが読者理解です。何を知りたいかだけでは足りません。どの場面で迷うのか、何を決める必要があるのか、何に時間やお金を使う人なのか、そこまで見えていないと、どこに独自価値を置くべきかは定まりません。その理解が深まるほど、自社がどの領域で独自性を出すべきかも見えてきます。つまり、読者理解が深まるほど、メディアとしての独自の立ち位置も明確になるということです。

無料と有料の役割分担

立石:読者がストレスなくサイトを回遊し、自然とファンになっていくような「PV向上」と、お金を払ってでも読みたいと思うコンテンツ課金への「継続利用」を両立させるサイト設計の勘所はとても重要ですね。ヒントとなるポイントがあればぜひお聞かせください。

坊田様:この問いは、単なる導線設計ではなく、メディアとの接触を習慣に変えていく設計として考えた方がよいと思います。ページを回遊しやすくするだけでは、継続利用にはつながりません。大切なのは、読者が情報を必要とする場面ごとに、適切な深さ、適切な見せ方、適切な導線が用意されていることです。たとえば、今すぐ状況だけを確認したい時と、背景まできちんと理解したい時とでは、求める記事の長さも構成も違います。

立石:サブスクのビジネスも考慮しつつ、無料と有料のコンテンツの分岐点やそれぞれの役割を意識されることもあるのでしょうか?

坊田様:無料域の役割は、新しい読者との接点を広げることにあります。一方、有料域の役割は、このメディアを継続して参照する理由を作ることです。ですから、PV向上と継続利用を両立させる勘所は、無料域では入口を広く保ち、有料域では繰り返し使いたくなる価値を蓄積することだと思います。具体的に言えば、無料域では速報、要点整理、話題の入口を担う。有料域では、その背景、分析、比較、実務への影響、継続的なデータ更新などを担う。そうすると、無料域が単なる撒き餌ではなく、有料域への自然な橋渡しになります。

データは記事の質を上げられるか?

読者理解を深めるうえで欠かせないのが、データの活用です。ただし、その使い方には前提があるといいます。

立石:データを分析することで、読者が何を求めているかのヒントを理解できますが、これを「記事の質の向上」と「PVの安定」にどう繋げるべきでしょうか?

坊田様:まず前提として、定量データだけでは十分とは言えません。定量から読み解けるのは、自社サイトや自社の配信面で起きている反応です。どの記事が読まれたか、どこで離脱したか、何が再訪につながったか。これは重要です。ただ、その数字だけを見ていると、既存読者が反応した範囲内でしか解釈できなくなりがちです。

定量と定性、両方があって初めて

立石:単一的に数字だけを見ていると、見誤ることがあるということですね。

坊田様:ニュースは、外の世界で起きている出来事と切り離せません。地震が起きれば災害記事が読まれる。テレビで店が取り上げられれば、その店の記事が伸びる。相場が動けば金融記事が読まれる。つまり、自社データの変化は、常に外部環境の影響を受けています。そのため、自社の数字だけを見ていると、外部要因で起きた変化を、自社の編集や運用の成果だと誤って解釈するおそれがあります。

立石:読者理解には、定量データに加えて、何が必要となるのでしょうか?

坊田様:だからこそ、定量データに加えて定性面での洞察が必要です。インタビューや観察を通じて、なぜその情報が必要とされたのか、どのような場面で役に立ったのかを確かめる。定量で傾向を捉え、定性で意味を確かめる。この両方があって初めて、記事の質の向上につながります。質の向上という意味では、データは編集判断を見直す材料です。テーマ設定、見出し、構成、掲出のタイミング、配信のタイミングを、実際の反応と照らし合わせて調整していく。一方、PVの安定という意味では、その時だけ大きく伸びた記事に振り回されるのではなく、継続的に再訪や回遊を生む記事の傾向を見つけ、その再現性を高めていくことが重要だと思います。

強いメディアは何を積み上げているか?

ここまで、サブスクを事業として捉え直すための考え方を伺ってきました。締めくくりに、力強く成長しているメディアの姿について尋ねました。

立石:日本は世界的にも優れたコンテンツを保有し、発信ができるメディアが多くあると信じてやみません。近年、生成AIの普及が急速に進み、メディア事業は非常に難しい舵取りを迫られていますが、デジタルシフトを進めながら継続的に読者に支持される強いメディアを目指すために今、現場で最も尽力すべきことは何だとお考えですか?

坊田様:最初に求められるのは、現状を変えなければならない理由を、組織全体で共有できる水準まで整理することだと思います。いまサブスクを検討しているメディアは、現在の収益構造だけでは持続性に不安がある、あるいは将来の柱を増やす必要がある、という問題意識をすでに持っているはずです。ただ、その問題意識が漠然とした不安のままでは、組織は動きません。どこに限界があり、何が変わり、どこに次の可能性があるのかを整理し、危機感と課題認識を共有することが出発点になります。しかも、これは一度共有して終わる話ではありません。仮説を立てて試し、結果を見て修正し、また試す。その反復を、編集と事業の双方が続けていく必要があります。ですから、現場で重要なのは、危機感と課題を共有したうえで、編集の考え方と作り方を継続的に見直していくことだと思います。

「代替しにくい位置」を確保する

立石:あらためて、今後成功していると言えるメディアは、今、何を「最も重要な資産」として積み上げている組織だと思われますか?

坊田様:最も重要な資産は、PVや会員数のような数字そのものではなく、読者が情報を探し、比較し、判断する流れの中で、代替しにくい位置を確保していることだと思います。読者は、メディアだけを相手に生活しているわけではありません。仕事、家庭、移動、娯楽のあいだで、さまざまなサービスや情報に触れています。その中で、このテーマならまずここを見る、この判断をする時はここで確かめる、という役割を持てているかどうか。圧倒的に強いメディアは、そうした情報の選択や判断の場面で優先的に思い出される位置を押さえています。読者の情報の流れのどこで、自社が代替しにくい役割を担えるかを見極め、その位置を確保することの方が重要です。ですから、将来圧倒的に強いメディアが積み上げている資産とは、信頼される判断材料であること、繰り返し参照されること、必要な場面で自然に想起されること、そして他の情報接点が増えても役割が揺らがないことだと思います。

ここまで本対談では、単純な購読データだけでなく、読者の生活や判断の流れの中で、メディアがいかに『代替しにくいポジション』を確保できるかについて伺ってきました。
そのうえで、サブスクを単なる課金施策ではなく、事業として組み立て直すための考え方を整理しました。後編では、編集現場の巻き込み方、データが明らかにするもの、そして将来を見据えた「ドメインシフト」の決断まで、さらに踏み込んだ話題に展開して参ります。

後編に続く)

 

AE編集部

サブスクリプション管理プラットフォーム「AE」を運営する、株式会社エンハンスの専門チーム。国内外のメディアビジネスに精通したメンバーが、メディア運営に役立つ「生きたインサイト」を日々研究・発信しています。